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​さもえど&むろ二郎
サマー台本サイト ❣

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   ♪-配役表(敬称略)-♪
​
★レッカ(♂)      : 
●マルチ(不問)     : 
◆セイバー(♀)     : 

▼ガンドッグ(♂)    : 
■ガンシャーク / 他(♂) : 
◎ノワール / 他(不問)  : 

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~~~~シーン⓪~~~~


◎ヴィラン:なぜ人は、「偶像」を追い求めるだろう。

◎ヴィラン:砂をかき分け彷徨い歩く、理解の及ばない者たち。
ある者はソレに"鮮烈な情動"を求め。
またある者はソレに"絶対の理想"を見出し。
そうして彼等彼女等はソレに"果てのない希望"を抱く。

◎ヴィラン:斯くして集まった砂丘からすくいとった、たった一粒。

◎ヴィラン:その推し量れない、ちっぽけな何かを。

◎ヴィラン:ワタシは最愛をこめて『偶像(ヒーロー)』とでも呼ぶとしよう。


◎ヴィラン:――はじめまして、ワタシの偶像。


~~~~シーン①~~~~


 とあるダンジョンの奥地。岩が崩れる音や金属が擦れる音。
 激しく疾走する二つの影。


★レッカ:はぁっ、はぁっ……!
おいマルチ、ゴールはまだかよ!ちんたらしてる暇ねぇぞ!

●マルチ:君こそ息が上がってるんじゃないか、少しはペースを考えろよバカ……!

★レッカ:うるせーな!くっちゃべってないで、さっさと道を拓け!

●マルチ:もうやってるよ……!通路の構造データをスキャン……ダメだ、トラップが多すぎる!なら迂回路を検索して――。

◎アナウンス:『第三試練、残り時間、5分。資格無き者はこの迷宮の塵となる』

★レッカ:5分だと!?道を選んでる暇はねぇな、っと。

●マルチ:うわっ、なにするんだ!

★レッカ:しっかりしがみついてろ、舌嚙むぜえええ!

●マルチ:あばばばば!?

 迷走しているマルチを担ぎ上げ、正面の通路を突き進むレッカ。

★レッカ:漢は黙って全速前進だぁあ!!

●マルチ:待てレッカ、そっちはトラップが集中してる!まさか無策で突っ込む気か!?

★レッカ:ったりめえよ――罠がいっぱいあるってんなら、そんだけゴールへの近道だってことだろ!

●マルチ:なんだその雑理論!単細胞!
……っ、サーチに反応!

★レッカ:こんなもんで止まってられるか!『爆熱・旋風脚』!

 罠の作動音。壁から無数の矢が放たれるが、
 炎を纏ったレッカの蹴り上げで矢は一気に弾き飛ばされる。
 そのまま速度を落とさず駆けるレッカ。


●マルチ:くっ、荒業すぎる……!もし行き止まりだったらどうするのさ……。

★レッカ:それはッ……行ってみりゃ分かる!

●マルチ:はぁ、本当に君ってやつは…………おかげで分析の手間が省けたよ。
このまま直進しろ、トラップは全方位に100か所相当。
躓いて時間を無駄にするなよ、脳筋バカ。

★レッカ:さっすがマルチ、俺の頭脳担当!ざっくりナビゲートはお前に任せたぜ。

●マルチ:いつものことだろ、まったく。

★レッカ:それほどでもっ!

●マルチ:開き直るな。

 罠の雨を突破していくレッカ。
 呆れた顔で身体を預けるマルチ。


◎アナウンス:『第三試練、残り時間、3分』

●マルチ:……間に合うかい?

★レッカ:上等だ――こんくらい出来なきゃ、英雄譚の主人公(ヒーロー)は務まらねえ!

●マルチ:っ……ああ、そうだね。
僕たちの夢を、こんなところで終わらせたりはしないさ。

 
 レッカに手をかざす。身体から血管のような紋様が指先へと奔り、さまざまな色の光りが宿る。
 
●マルチ:――霊脈解放。精霊回路接続(エレメンタルリンク)!
『炎身励起(アクティベート)』『疾風駄天(アクセラレーション)』『雷脈超過(オーバーブースト)』!

★レッカ:おぉおぉおキタキタ~~~!

●マルチ:変な声だすな。
ブーストの効果はもって1分。超強力だけど反動が死ぬ程エグイから、効果が切れる前に死ぬ気で走って。
ゴールできなきゃ殺す。

★レッカ:どっちにしろ俺しぬやつ!?

◎アナウンス:『第三試練、残り時間、2分』

●マルチ:準備はいいかい、相棒。

★レッカ:へッ。誰に言ってやがんだ。

 足を止め、その場で腕をクロスして気を高めるレッカ。
 身体に赤いオーラが纏わり付き、全身を覆い尽くす。


★レッカ:そんじゃ……いっちょ往くぜ――闘気解放!『鬼神烈火』!!

 レッカの身体を炎の渦が巻き、赤黒い鬼の様相を象った武装に身を焦がす。

◎アナウンス:『第三試練、残り時間、1分』

★レッカ:バァァァニング――ゴォォォォオ!!

 地を蹴り、轟音を立てて一直線に加速する鬼武者。
 罠が次々と発動し襲い掛かるが、全て炎に飲まれ灰と化す。


●マルチ:くっ!!相変わらずの熱量、こっちまで焼かれそうだ……!!

★レッカ:このままぶっちぎるぜえええええ!!

●マルチ:前を見ろ、壁の仕掛けだ!
超高圧プレスになってる!押しつぶされるぞ!

★レッカ:真っすぐだな!分かったぜ!

●マルチ:ばか!かべだ!!

★レッカ:壁は壊す!おんどりゃああっ!!

●マルチ:くっ、むちゃくちゃするなぁ……!
ほら、もう見えてきたよ、門だ!

★レッカ:いいぞマルチ、ラストスパートだ……あっ!?

◎アナウンス:『侵入者を検知。速やかに排除する』

 地鳴りと共に、壁際から複数の岩石巨人が現れる。

●マルチ:ゲートガーディアン……最後のトラップか!レッカ!!

★レッカ:しゃらくせえええええええ!!!
バーニングしねしねパァァァァンチ!!!

◎アナウンス:『第三試練、残り時間、10秒』

★レッカ:野郎、殴っても殴ってもすぐ元通りになりやがる!
だったらッ、粉微塵にしてやらあああ!

●マルチ:やれやれ、世話の焼ける相棒だよ……!
霊的反応(エネルギー)が最も集中している場所――狙いは頭部一点!

★レッカ:よっしゃ合わせろ、マルチ!これが、俺たちのヒーローへの第一歩だ!!

●マルチ:分かってるよ暑苦しい。
まだまだ道は長いんだ、死なない程度に頑張ろうぜ。

★レッカ:食らえ渾身のッ!『爆熱ッ!ライジングフィストォォォッ!』


~~~~シーン②~~~~


 凄まじい爆発音と、巨人の分厚い胴体が砕け散る轟音。
 そのまま門を突き破り、円形の大広間に身体を投げ出すレッカとマルチ。


●マルチ:うわあああ!!

★レッカ:どわあああああ!!

◎アナウンス:『順位98。ならびに順位99。両名の通過を確認』
『第三試練、終了。最終試練の間へようこそ。次のアナウンスがなるまでその場で待機せよ』

★レッカ:ぐへぇ!!もうだめだ~!

●マルチ:がはっ!着地までしっかりしてくれ……!

 床に転がる二人。広間にはすでに4人の人影があった。

▼ガンドッグ:――チッ、時間ギリギリで駆け込んできたか、雑魚共が。

■ガンシャーク:ずいぶんとお騒がしい連中だァ。

●マルチ:……!先客、か。100人近くいた参加者が、たったこれだけに。

◆セイバー:ふむ。時間内の到着、見事です。これで最終試練の参加者は……。

◎ノワール:…………6人。

★レッカ:こいつらも、あのイカれた試練を……!

●マルチ:……ともあれ、僕たちも辿り着いた。ヒーローになるための……最後の試練に。

▼ガンドッグ:オイオイ、よく見りゃガキが混じってんじゃねえか。
穴倉に来てまで遠足気分かよ?

★レッカ:あんだと、おまえら!

●マルチ:やめろレッカ、余計な体力を使うな。

★レッカ:けどよ……うぐっ……なんだ、身体から力が抜けてぇ……!

 急に膝から崩れ落ち、魂が抜けたように真っ白になるレッカ。

★レッカ:ダメだ……燃え尽きちまった……使い捨てのマッチ棒みたいに……。

●マルチ:ブーストの反動だ。動けない奴は引っ込んでなよ。

■ガンシャーク:ハッ、威勢がいいのは口だけかァ?情けねェ。

●マルチ:……君こそ口を慎んだらどうだ?「双頭兄弟(オルトロス)」のガンシャーク。
それとも、言葉遊び(ディベート)がお望みなら受けて立つけど、その回らない舌を噛み切るなんてダサい死し方はしたくないだろ?

■ガンシャーク:あ゛ぁ?粋がってんじゃねえぞォ……!
減らず口が二度と叩けねぇように顎ごと引き裂いてやろうかァ!

▼ガンドッグ:喚くな。テメェも黙らねえか。

■ガンシャーク:言われっぱなしじゃ腹の虫がおさまらねぇよ兄貴ィ……!
もう辛抱ならねぇ、今ここでやっちまおうぜェ……なぁ!

 どこからか素早く銃を取り出すシャーク。それをマルチに向ける。

●マルチ:遅いよ、もう解析済みだ――『属性分離(ディスペル)』。

■ガンシャーク:ッ!俺の銃がバラバラにィ……!?触れられてもいねぇのにどうやってェ……!

▼ガンドッグ:ほう。小細工にしては大したもんだ。ただの後衛職じゃぁねえな。

■ガンシャーク:なにしやがったァ!

●マルチ:さあね。銃口にガムでも詰まらせたんじゃない?

■ガンシャーク:クソガキがァ、ナメやがってェ……!

▼ガンドッグ:逸るなブラザー。せっかちなのはオマエの悪い癖だ。

■ガンシャーク:グギィィィ……!

▼ガンドッグ:どうせすぐに鳴けなくなるんだ。お楽しみは最後まで取っておくもんだぜ。

 獲物を捕らえるような眼光でマルチを睨め付けるガンドッグ。

●マルチ:……「双頭兄弟(オルトロス)」のガンドッグ。君たちの噂は腐るほど聞いてるよ。
目的のためなら手段を選ばず、他の戦士を罠に嵌め、任務を妨害し、排除する。
そうやってここまでのし上がってきた。ゴロツキ……いや、手のかかる狂犬だね。

▼ガンドッグ:クククッ、ずいぶんと物知りだな坊主。
その通り。奪い、蹴散らし、騙くらかす。文句は言わせねえ、なぜならやり返せねえ雑ァ魚が悪い!
それが俺たちの流儀(やりかた)だ。
――これからその武勇伝に、"生意気なガキの躾"って項目がもうすぐ追加されるらしいぜ?

●マルチ:へぇ……詳しく聞かせてくれよ。

▼ガンドッグ:あぁ。時間ならたっぷりある。

◆セイバー:――――そこまでにしなさい!

 近づいていく二人の間を、眩い輝きが遮る。

●マルチ:ッ、光のバリア……!

▼ガンドッグ:チッ。

◆セイバー:見苦しい。ここは私闘の場ではありません。
我々が何のためにこの場に立っているのか……その目的を、もうお忘れですか。

▼ガンドッグ:止めてくれるなよ、騎士様よぉ。単なる世間話だろぉ?

◆セイバー:ならばその殺気をしまいなさい、度が過ぎる。
これでもまだ無意味な争いを続けるというなら……私がまとめて相手をしましょう。
それでも――やりますか?

 セイバーの纏う光が徐々に強まっていく。
 横やりを挟まれ、ガンドックはやる気が失せたようにその場を離れていく。


▼ガンドッグ:――フン、興がそがれるぜ。

●マルチ:こっちのセリフだ。

◆セイバー:少年。あなたもあなたです。
同じ戦士であっても奴等は特に警戒すべき相手。不用意に挑発には乗らないことです。

●マルチ:ご忠告どうも、お偉い騎士サマ。
次は放っておいてもらいたいね。自分の問題は自分で解決する。

◆セイバー:自己紹介は不要ですか。

●マルチ:法と秩序の番人。迷宮ギルド屈指の実力者。「聖剣伝説(パラディン)」のセイバー。
語るまでもなく有名人だよアンタは。
ここでも警備ごっこかい?精がでるね。

◆セイバー:民を守る聖衛騎士として、無益な争いは看過できません。

●マルチ:この試練では全員が対等な戦士だろう?つまり出し抜き合うライバルだ。法も立場も関係ない。
アンタの指図は受けないよ。

★レッカ:俺たちは、いつだって自由だぜ……。

◎ノワール:…………。

◆セイバー:はぁ。これだから無所属の戦士は……まさしく烏合の衆。協調性の欠片もない。

▼ガンドッグ:ククッ、違いねえ。
じゃあなんだ騎士殿、ここはひとつ火でも囲んでお互いの夢なんざ語り合ってみるか、あァ?
ダンスもありゃ、絆だって芽生えちまうかもなァァ?

■ガンシャーク:ハッ、そいつはいいぜ兄貴ィ!俺が小細工野郎と一曲踊ってやんよォ。
銃(オモチャ)がなくなって暇してるもんでなァ……!

●マルチ:遠慮するよ。獣(けだもの)と踊り明かす趣味はない。

◆セイバー:もう十分です、時間の無駄だ。
この場は私が預かりましょう。異論のある者は叩き斬ります。

▼ガンドッグ:打って変わって強情だなぁ。悪くねえ。

●マルチ:お好きにどうぞ。

◎ノワール:…………構わない。

 全員の視線がセイバーに集まる。

◆セイバー:私情を挟むのはここまでです、まずは目的を再確認しましょう。
我々の目的はただ一つ、この大迷宮の試練を突破すること。
皆もこの場に至るまで、多くの戦士達が脱落するのを目の当たりにしてきたでしょう。
この試練がいかに過酷なものか、身をもって知ったはずです。

●マルチ:各地の迷宮を踏破して"力の資格"を手に入れた100人以上の戦士が一堂に会する大規模な試練。
……フタを開ければ、この有様だけど。

▼ガンドッグ:その中から最も強い戦士を選んで『外界』に送り出す、ってか。
クククッ、いいじゃねえか。要は雑魚共をまとめて食い散らかして最強を決めろってことだろ。

■ガンシャーク:そそられる話だァ……!

◆セイバー:その粗暴な考えが、自らの首を絞めることにならなければいいですが。

●マルチ:結局なにが言いたいわけ?

◆セイバー:これまでの試練とは違い、この最終試練の内容は一切が不明。
想像を絶する苦戦を強いられるでしょう。
幸いにも、ここには勇猛な戦士が6人も到達しました。
なら我々がすべきことは、互いに潰し合い力を消耗することではなく、未知の脅威に備え協力体制を敷くべきです。
それが最も生存率の高い、最良の判断でしょう。

▼ガンドッグ:「最良」ねぇ……聞こえのいい言葉で群れようとすんのは、テメェに殺り合う度胸がないからだろうが。

◆セイバー:……どういう意味ですか。

■ガンシャーク:兄貴の言う通りィ!最強ってのはたった一人!
馴れ合うヒマがあったら、どいつの喉笛から掻っ切るかを考えるねェ俺はァ!

▼ガンドッグ:それともお嬢様は、ここに来て臆病風にでも吹かれたか?クククッ!

◆セイバー:貴方たちは……!

●マルチ:残念だけど、その提案には僕も乗れないな。

◆セイバー:貴方まで……本気ですか。

●マルチ:協力とは信頼の上に成り立つものだよ。
あんな狂犬共と背中合わせなんて、死んでも御免こうむる。裏切られるリスクを抱えるくらいなら、僕とレッカの二人だけで戦う。

★レッカ:俺たちは……灰になるまで……撃つべし……。

●マルチ:きれいごとじゃ、勝ち残れない。分かり切ったことだろ。

◎ノワール:…………。

◆セイバー:……。愚か者ばかりですね。
誰も傷つかずに済む手段を放棄して、自ら争いに興じるなどと……!

▼ガンドッグ:だから興がそがれんだよ。

◆セイバー:っ!

▼ガンドッグ:協調・信心・誠意・理想・正義。そんなのがテメェの生き方か? 
 糞 つ ま ん ね ぇ な オ イ 。

◆セイバー:――なんだと。

■ガンシャーク:おめでてェ騎士様は、お花畑で夢でも見てんのかよォ、クキキキキ!

▼ガンドッグ:どんなにお綺麗な信念(ドレス)を装ったって、隠しきれねぇ欲がある。
人の欲には際限がねえ、どこまでも私利私欲を満たさなきゃ気が済まねぇ生き物だ。
だから"力"を求めた、テメェもそうだろ?

◆セイバー:同じではありません。

▼ガンドッグ:素直になれよ。
俺達は同じ穴の狢。弱者を踏み倒し強者を気取る。そのための「力(ギフト)」だろこれはァ!

◆セイバー:断じて否ッ。天から授かったこの恩恵は、弱き者を救い導くためのもの。
大衆に尽くし、理想を体現する。
それが力を持つ者の義務です!

▼ガンドッグ:ハッ、反吐が出る。
テメェの言う理想ってのは、結局テメェが気持ちよくなりたいだけの方便だろうが。

◆セイバー:貴様――!

▼ガンドッグ:力を誇示して弱者を見下す、それが気持ちいいんだろ?よ~く分かるぜぇ。

◆セイバー:貴様の我欲と私の大義を一緒にするなッ下衆!!

 セイバーの身体から光が迸る。それをみてせせら笑うガンドッグ。

▼ガンドッグ:クククッ!そうだ、結局は力がものを言う。
テメェの薄っぺらい信念(メッキ)、俺が力ずくで剝がしてやろうかァ。

◆セイバー:試すがいいでしょう――その穢れた魂ごと浄化されたければ……!

 空気が一触即発する中、アナウンスが鳴り響く。

◎アナウンス:『――勇敢なる戦士諸君、第三試練の突破を歓迎する』

●◆▼■全員:――!!

●マルチ:きたか……!起きろレッカ!

★レッカ:うげぇ……いまどういう状況だぁ……っ!

●マルチ:始まるぞ。

◎アナウンス:『通過者は6名。資格を宣誓せよ』

◆セイバー:わが身は剣と共に。剣聖の戦士、セイバー!

▼ガンドッグ:クククッ!武力の戦士、ガンドッグ。

■ガンシャーク:同じく武力の戦士、ガンシャーク!

◎ノワール:……。終焉の戦士、ノワール。

★レッカ:しゃあッ寝てる場合じゃねぇ!赫灼の戦士、レッカ!!

●マルチ:精霊の戦士、マルチ。

◎アナウンス:『――これより、最終試練を始める。試練の名は、レッドフラッグ。エリア内の旗を奪取せよ。勝者は、ただ一人とする。以上』

 広場の中央がせり上がり、頂上に一本の大きな赤いフラッグが旗めく。
 一同に戦慄が走る。


★レッカ:勝者は、一人だけ!?

●マルチ:つまりは生き残りを賭けたバトルロイヤル形式……!

▼ガンドッグ:潰すだけなら単純だァ、先手必勝ってか……!

◆セイバー:もはや争いは避けられない……!!――ッ、この殺気は!

◎ノワール:終焉術・開紋。『深淵追放(アビスフォール)』。

★●◆▼■全員:ッッッッ――!!

 各々がノワールの行動に反応した、直後。
 広間全体に大規模な亀裂が走る轟音。巨大な奈落の穴が出現する。
 足場が崩落し、全員が奈落に放り出される。


★レッカ:ぐおおおお、じ、地面が崩れるぞ!!

◆セイバー:くッ、足場が……!分断される!!

●マルチ:レッカ、僕から離れるな!!

■ガンシャーク:やってくれるぜェ……!

▼ガンドッグ:クククッ、ハハハハハハハ!!そうこなくっちゃなァァーー!!

 それぞれが闇の中へ呑まれていく。アナウンスが奈落へ反響する。

◎アナウンス:『――選定を、開始する』


~~~~シーン③~~~~


 闇に閉ざされた領域。墜落した地面が浮島となって宙をさまよう。
 岩盤を足場にして着地するガンドッグ、そしてレッカ。


★レッカ:うおっ!なんだここ、真っ暗じゃねえかよ!どこだマルチ!

▼ガンドッグ:――誰も助けには来ねえよッ、うぉらッ!!

★レッカ:てめぇ!?ぐぅぁぁ!!(吹き飛ぶ)

▼ガンドッグ:ハッ!どいつもこいつも、考えることは同じってえわけだ。

★レッカ:くそったれ……!ガンドッグ!

▼ガンドッグ:単純な理屈だ。目の前の獲物を全部喰らえば、残るのは最強の捕食者のみ。
クククッ……哀れだなぁ、ガキ。最初の対戦相手(マッチアップ)がこの俺とはよォ!

★レッカ:上等だ!てめぇのニヤけヅラ、サンドバッグにしてやらぁ……!
闘気解放!『鬼神烈火』!!

▼ガンドッグ:楽しませてくれよォ、弱者(チャレンジ―)!

★レッカ:まずはさっきの仕返し、食らえ爆熱!ライジングフィストォ!!

▼ガンドッグ:グ!!強烈ゥ、こいつはシビれるぜ……!だが。

★レッカ:ッ、受け止めやがった!?

▼ガンドッグ:赫灼の戦士……自身の気を火力に変えて纏うか。
その上初っ端からこの出力、後先考えねえ典型的な特化型。テメェのようなバカは嫌いじゃねえ。

★レッカ:うるせぇ、分析ごっこかよ!もう一発、爆熱ッ!

▼ガンドッグ:動きが直情的すぎだァ、脳筋が。

 
 素早い動きで懐からナニかを取り出し、肉薄するレッカに投げる。
 一瞬の炸裂音と共に、強烈な音波が頭を劈く。
 
★レッカ:ッッ!!
 
▼ガンドッグ:『獣咆哮弾(キングハウリング)』!

★レッカ:ぐぁッ、あ、頭がガンガンする……!

▼ガンドッグ:ほう、雑魚なら一瞬で昏倒するワザだが、なかなか頑丈な奴だ。
いいぞ、もっと足掻け!

★レッカ:こういうときは、こういうときは……、ふんぬっ!!(岩に頭突き)
ふー……目ぇ覚めた……!

▼ガンドッグ:クハハハッ、荒療治かよ!バカらしい攻略法だ。

★レッカ:冷静になったって意味だぜ……!てめぇをぶっ飛ばす方法を一つ思いついた。

▼ガンドッグ:あァ?お次は何を見せてくれんだ!

★レッカ:こうするんだよ!爆熱ッ!(踏み込む)

▼ガンドッグ:オイオイ芸がねえぞ。二度も食らうか――。

★レッカ:――ライジングダッシュ!!

▼ガンドッグ:速い、さっきの比じゃねえ――!
だが真正面ならまたガードすりゃあ…………、いやマズイ!

★レッカ:もう遅えよォオ!!最大火力!!

▼ガンドッグ:ガハァッ!勢いが落ちねえ――!!

★レッカ:防がれんなら、こじ開ける!!『爆熱ッ!ライジングキャノンッ!!』

 レッカの突進を防ぐガンドック。身体から炎が噴出し、ガンドックもろとも宙に飛び出す。

▼ガンドッグ:チィッ、炎を推進力に捨て身の特攻!正気かキサマ……!!

★レッカ:てめぇを貫くまで止まらねえよ!!
先に俺が灰になるか、テメェの脳天がぶっ飛ぶか――勝負しようぜ、強者ァ(ハイランダー)!!

▼ガンドッグ:くそがァァアッッ舐めるんじゃねェエエ!!

★レッカ:付き合ってもらうぜ!!バァァァニング――ゴォォォォオ!!

 炎に包まれ、闇の向こうへ飛んでいくレッカとガンドック。


~~~~シーン④~~~~


 視点は変わり、闇に浮かぶ巨大な浮島。
 中央に佇むセイバーの周囲を、崩れた岩盤がゆっくりと旋回している。


◆セイバー:……どこまでも続く闇。逃げ場のない閉ざされた空間。
自らの領域に閉じ込め、孤立した戦士を一人ずつ襲撃する。

◆セイバー:試練の旗(フラッグ)を奪うためではない……これは、我々への明確な敵意。最初からこうすることが目的でしたか。

 セイバーの背後。暗闇の中から、黒い靴の先がゆっくりと現れる。
 影から染み出すように、黒衣を纏ったノワールが姿を現す。


◆セイバー:最も警戒すべきはあの兄弟とばかり思っていましたが……。
大きな誤りだったようです。

◎ノワール:…………クフフ。

◆セイバー:殺気を隠す気もありませんか。

◎ノワール:隠す必要が、ない。

◆セイバー:先ほど広間を崩落させた力。
あれほど大規模な能力を一人で扱える戦士など、私は聞いたことがありません。

◎ノワール:知る必要も、ない。

◆セイバー:終焉の戦士、ノワール……。
資格を得た各地の戦士については、騎士団でも可能な限り調査していました。しかし貴方に関する記録だけは、一切存在しなかった。

◎ノワール:……力を持つことが、全て。
戦士や、過程は、どうでもいい。

◆セイバー:戦士でなければ、貴方は何者ですか?何のためにこの試練へ参加した。

◎ノワール:選ぶためだ。

◆セイバー:……外界へ向かう戦士を?

◎ノワール:違う。

◆セイバー:……。

◎ノワール:――――器を、だ。

 ゾッと這いよる悪寒。即座に剣を構えるセイバー。

◆セイバー:……どうやら貴方は、私が想定している以上に危険な存在らしい。

◎ノワール:一人で、止めるつもりか。

◆セイバー:何を企んでいるかは知りませんが。
私が敵となる以上、容赦はしない。今ここで、正体を確かめましょう。

◎ノワール:その必要はない。お前は、ここで終わる。

◆セイバー:随分と自信があるようですね。

◎ノワール:剣聖の戦士――その光は美しく、そして脅威だ。

◆セイバー:……!

◎ノワール:だから、最初に消す――終焉術・第二紋。

◆セイバー:――『聖光障壁(ディバインシールド)』!!

◎ノワール:『暗黒葬槍(ブラックレイン)』。

◆セイバー:くっ、一撃ごとの威力が並の能力ではない……!しかし、ハァ!!

◎ノワール:ッ――!

 剣を振り上げ、光の障壁ごと黒い槍を押し返す。

◆セイバー:この程度で、我が守りを破れると思われていたなら……随分となめられたものです。

◎ノワール:終焉術――。

◆セイバー:二度は受けません――!

 光の斬撃がノワールの右腕を斬り落とす。

◎ノワール:っ、すでに、斬られている、はやい………!

◆セイバー:聖剣カリバーン――この剣は、貴様のような闇を切り払うためにある!
我が光をもって、とくと知れ!

◆セイバー:天上に差す飛翔の剣!『聖光翼斬(ルミナスフェザー)』!!

 聖剣から放たれた光の翼がノワールを襲い、身体に風穴を開ける。

◎ノワール:がはッ……!!

◆セイバー:勝負ありました。

◎ノワール:これは、想定以上の、力、だ……。

◆セイバー:大人しくしてくれれば死にはしませんよ。この領域を解除し、我々を開放しなさい。

◎ノワール:………………クフフフ。

◆セイバー:……?何を笑って。

◎ノワール:素晴らしい。クフフフフフ――。

 切断面から黒い根が盛り上がる。
 失われたはずの右腕が、身体の風穴が、不気味な音を立てながら再構築されていく。


◆セイバー:なッ、腕が……再生した!?
治癒の能力……いえ、まるで肉体そのものを作り直しているかのような……!

◎ノワール:残念だ。もう、直ってしまったぞ。

◆セイバー:くっ!!

◎ノワール:終焉術・第三紋。『亡者荒葬(グレイブヤード)』。

◆セイバー:死者を模した幻影……いや、実体がある!

◎ノワール:飲み込んでやろう。

◆セイバー:これしきの事ッ!『聖域展開(サンクチュアリ)』!

◎ノワール:……闇を、焼き払う光。希望。正義。実にいい。

◆セイバー:何が言いたい。

◎ノワール:人は、形のないものに名をつける。強い偶像を、追い求める。
……ワタシも、そうだ。

◆セイバー:ごちゃごちゃと。得体のしれない……ならば、これならどうです!
天地を分つ神聖の剣!『聖光斬(セイクリッドスラッシュ)』!!

 光を纏った剣が、ノワールの全身を斬り刻む。
 腕、脚、胴体が次々と切断され、黒い液体が宙に飛び散る。


◎ノワール:……!!

◆セイバー:はぁぁぁぁッ!

 最後の一閃がノワールの首を刎ねる。

◎ノワール:クフフフフフ。満足したか?

◆セイバー:首を失っても動くとは……!貴様、本当に人間か……!

◎ノワール:その問いに、意味はない。

◆セイバー:そうはいかない。この試練は、外界へ送り出す戦士を選定するもの。
人々を守る戦士に、人ならざる化け物が紛れ込んでいるのならば――。
ここで必ず討ち果たす!

◎ノワール:何を言う。お前も同じだ。

◆セイバー:なんだと?

◎ノワール:力を受け入れた時点で、お前たちはすでに人から外れている。都合よく作り替えられた、器だ。

◆セイバー:貴様……!

◎ノワール:お前の正義(ちから)も、お前自身も、ただ与えられ、作られた偶像だ。

◆セイバー:黙れッ!!

 セイバーが光の翼を羽ばたかせ、上空へ舞い上がる。

◆セイバー:我が心は誰にも作られてなどいない!
この剣に誓った使命も、守りたいと願った意思も!
私が選び、私がこの胸に刻み込んだものだ!

◆セイバー:神器開放!!
カリバーンの光に散れ!!『天穿聖光剣(ヘヴンズ・レイ)』!

◎ノワール:……!!!

◆セイバー:逃がしません!ハァァ!!

 光の中へ自ら飛び込み、ノワールの胸部を剣で貫く。

◆セイバー:これで……終わりです!

◎ノワール:この素体では。

◆セイバー:ッ――!

◎ノワール:ここまでが限界か。

◆セイバー:何を言っている……!答えなさい、貴様は何者だ!

◎ノワール:この名も。この顔も。この力も。器のひとつに過ぎない。

◆セイバー:ッ!禍々しい気が集まって……!

◎ノワール:終焉術・閉紋。『黒滅(デッドエンド)』。

◆セイバー:クッ……ディバインシールド、最大展開ッ!

◎ノワール:選定は、すでに終わっている。

◆セイバー:なに……!

◎ノワール:また会おう、ワタシの偶像(ヒーロー)。

 ノワールの身体が膨張し、大爆発を起こす。

◆セイバー:ぐああああッ!!

 爆発によって浮島が完全に崩壊する。
 光の障壁に守られながら、セイバーは別の浮島へ叩きつけられる。


◆セイバー:ぐっ……はぁ……はぁ……!
自爆した……死んだのですか……!しかし、あの言葉は。

 間

◆セイバー:力の資格を授かった者であっても、肉体の構造まで逸脱することはない……奴はいったい。
空間が戻る気配もない……この胸騒ぎ。
何かが……何か恐ろしいものが、動き始めている……!


~~~~シーン⑤~~~~


 浮島が密集する別の箇所。
 無数の銃弾をかわしながら、マルチが岩陰へ飛び込む。


■ガンシャーク:オラオラオラァ!逃げ回ってばっかじゃ勝てねぇぞ、小細工野郎ォ!

●マルチ:一発でも当ててから言いなよ、そういうことは――ディスペル!

■ガンシャーク:キッ!死角からコソコソとォ!無駄なんだよ!!

 分解された武器を放り投げ、懐から別の銃火器を取り出す。

●マルチ:チッ……!壊しても壊してもキリがない。何丁隠し持ってるんだコイツ!

■ガンシャーク:撃って捨てて次を抜く!コーリツ的な使い方ってもんだァ!

●マルチ:蛮族らしい考え方だな!
精霊回路接続(エレメンタルリンク)、『疾風障壁(エアロウォール)』!

■ガンシャーク:チョロチョロとォ!

●マルチ:今度はこちらの番だ。『石縛鎖(ロックバインド)』!

■ガンシャーク:あァ?!足に鎖が!

●マルチ:『水圧弾(アクアバレット)』!

■ガンシャーク:ぐおおッ!

●マルチ:ここだ――『電撃波(ボルトクラッシュ)』!

■ガンシャーク:ぐぎぎぎぎッ……!

 雷撃を浴び、ガンシャークの銃が次々と爆発する。

●マルチ:武器は優秀でも、使い手はそうじゃないみたいだな。
手数を使った戦術で勝負を挑むなら、僕との相性が悪かったね。

■ガンシャーク:ヘッ……だからなんだァ?
相性だのなのだの、頭でっかちな奴はすぐそうやって勝った気になりやがる。

●マルチ:事実、膝をついてるのはそっちだ。
君の持つ武器系統はだいたい分かった。もう銃火器は使えないし、使わせない。

■ガンシャーク:んなら……試してみる、かァ!

 ガンシャークが自らの腕に噛みつく。
 流れ出した血が、みるみる武装へと変化する。


●マルチ:なに!?自分の血液を武器に変換……!

■ガンシャーク:武装顕現!『血鮫装甲(ブラッディシャーク)』!!

 ガンシャークの全身が赤黒い装甲に包まれる。
 背中には鮫の背びれ、両腕には巨大な顎状の刃が形成される。


■ガンシャーク:銃が効かねえなら、直接喰い千切るまでよォ!

●マルチ:脳まで魚並みとはね!

■ガンシャーク:『鮫牙突進(シャークバイト)』!!

●マルチ:動きが速い――ッ!

■ガンシャーク:食い破ったらァ!

●マルチ:ぐ、あぶなッ!

 分厚い刃がマルチの顔を掠め、背後の岩をごっそりと削り飛ばす。
 マルチの頬に血が滴る。


■ガンシャーク:クキキキキ!どうしたどうしたァ、賢い頭で次の手を考えろよォ!

●マルチ:……なるほど、合点がいった。
そうやって血液を消費する代わりに、武器や防具を生み出したり、牙や爪を強化して戦闘力を底上げする。そういった力か。

■ガンシャーク:ネタが明かせて気が済んだかよォ、じゃあ死ね!!

●マルチ:なら――『爆炎球(フレアボム)』!

■ガンシャーク:効かねえよォ!

●マルチ:分かってるさ。僕が狙ったのは、君じゃない……下だ!

■ガンシャーク:アァ!?なにィ!?地面が崩れて!

●マルチ:いくら強化が出来たって、空を飛べるわけじゃないだろ。その重そうな装甲じゃなおさらだ。

■ガンシャーク:クソ!がァァッ!

 落下するガンシャーク。しかし、両腕の刃を岩壁へ突き刺して踏みとどまる。

●マルチ:チッ、しぶといな……。

■ガンシャーク:そうだァ。俺はしぶてェんだ。兄貴と二人で、勝ち残るためになァ!

●マルチ:兄弟愛を語るような顔には見えないけど。

■ガンシャーク:兄貴以外はどうだっていいさァ!何人死のうが、どれだけ恨まれようが知ったことか!
兄貴が最強になる邪魔をする奴は、全部俺が喰い殺す!

●マルチ:残念ながら、旗を手にできるのは一人だけ。最後には、君とその兄も殺し合うことになる。

■ガンシャーク:クキキキ!んなら、決まってるだろォ。俺が兄貴に殺されて、旗は兄貴が手に入れる。

●マルチ:本気で言ってるのか。

■ガンシャーク:あの人は俺より強い!俺より賢い!俺より、このクソみてぇな世界を生き抜く力がある!
ガンドッグの兄貴さえ生き残りゃあ、俺は勝ったも同然だァ!

●マルチ:理解できないね。

■ガンシャーク:テメェも他人事じゃねぇだろォ!連れのガキんちょと殺し合う準備はもう済んでるのかァ~!

●マルチ:ルールなんて関係ない。
僕たちは二人でヒーローになる。最初から、そう決めてるんだ。

■ガンシャーク:ハッ!ガキの夢物語だなァ!

●マルチ:そうだね。少なくとも敗者(キミ)は、夢を見ることもなくここで一人惨めに死ぬんだから。

■ガンシャーク:ほざけェェェ!『鮫牙突進(シャークバイト)』!!

●マルチ:『疾風障壁(エアロウォール)』!!

■ガンシャーク:キシャァァア!

●マルチ:ぐあッ、強引に突き破ろうと!

 鋭利な刃がマルチの腕に到達し、血が突風で逆巻く。

■ガンシャーク:血みどろで死ぬのはテメェの方だ三下ァー!!

●マルチ:なら、直接触れてでも――『属性転換(エレメンタルリバース)』!

 血の鮫を構成していた液体が凍結し、砕け散る。

■ガンシャーク:なにッ!?また俺の武装が……!

●マルチ:血液も、大半は水分でできている。
いくら異能で性質を変えようと、根本まで消えるわけじゃ――ない!!(蹴り)

■ガンシャーク:ぐぼあッ!?

●マルチ:ゼロ距離だ、『氷晶球(フロストボム)』!

■ガンシャーク:がぁぁぁあ!!

●マルチ:『石縛鎖(ロックバインド)』!

■ガンシャーク:……か、身体がァ……この!

●マルチ:血を使いすぎたね。今の体力じゃ解けないだろ。

■ガンシャーク:まだだァ……!まだ俺は……!

●マルチ:ここまでだ。

■ガンシャーク:ちくしょおおおッ!

 その直後、別の浮島を突き破って炎に包まれた二人が飛び込んでくる。

★レッカ:うおおおおおおお!!

▼ガンドッグ:ぐああああああ!!

■ガンシャーク:兄貴ィ!?

●マルチ:レッカ!?くそ!!

 レッカとガンドッグが激突しながら地面へ落下する。
 マルチが飛びのき、ガンシャークが解放される。


●マルチ:せっかく追い詰めたのに!君は登場するたび僕の計算を狂わせるな!

★レッカ:いっててて……お、ようマルチ!無事だったか!

●マルチ:こっちのセリフさ!

▼ガンドッグ:ケッ、ブラザー!そっちも随分と楽しんでいたようだな。

■ガンシャーク:クキキ、兄貴も黒焦げじゃあねえかよォ。

▼ガンドッグ:大したこたぁねえよ。ちょいとガキの火遊びが過ぎただけだ。

★レッカ:誰が火遊びだ!次は消し炭にしてやる!

▼ガンドッグ:クククッ。ようやく役者が揃ったじゃねえか。

■ガンシャーク:兄貴と俺。

▼ガンドッグ:ガキと小細工野郎。

■ガンシャーク:どっちが勝者でどっちが敗者かァ。

▼ガンドッグ:ここで決めるとしようぜェ。

●マルチ:望むところだ。

★レッカ:ヘッ!バディ対決ってやつだな!!

●マルチ:ただし、僕の指示には従え。勝手に突っ込むな。

★レッカ:心配いらねぇよ。
俺とマルチが一緒なら、どんな相手にでも負けねえ……!

●マルチ:フッ、まったく…………。

 今にも襲い掛からん狂犬のように立ち塞がる兄弟。
 それに相対する、二人の小さな戦士。


●マルチ:それだけは、僕も同感だよ。

★レッカ:いっちょ往くぜ、相棒。


~~~~シーン⑥~~~~


 回想。まだ二人が幼かった頃。
 ただ一面に乾いた砂が広がっているだけの場所。
 その真ん中で、幼いレッカが一冊の古びた本を両手いっぱいに広げていた。


★レッカ(幼):おお~!!見ろよマルチ、このページすげえぞ!

●マルチ(幼):もう、またその話かい?何回目だよ。

★レッカ(幼):地面がぜーんぶ砂で、その向こうには水がずーーっと続いてんだ!

●マルチ(幼):知ってるってば、それ僕の本だし。
「海」っていう、外界には僕らが知っている湖なんかとは比較にならないくらい大きな水の集まりがあるって……本当かどうかは知らないけどね。

★レッカ(幼):こんな景色、本当にあったら最高じゃねえか!水がドバーンってなって、後ろには夕日がドカーン!

●マルチ(幼):大げさだよ。英雄譚に夢見がち。

★レッカ(幼):そういうマルチは夢がねえなぁ!

●マルチ(幼):夢なんて、妄想だよ……外界なんて見たことないし。

★レッカ(幼):……そんじゃあ。確かめてみようぜ。

●マルチ(幼):え?

 レッカが勢いよく立ち上がる。
 その辺に落ちていた細長い棒を拾い、ボロ布を結びつける。


★レッカ(幼):俺は決めた。ヒーローになって、絶対ここに行く! 海ってやつをこの目で見て、思いっきり走って、それでこの絵みたいに格好よく立つ!

●マルチ(幼):ヒーロー……、外界の戦士のこと?

★レッカ(幼):いんや!英雄譚のヒーローだ!

●マルチ(幼):はあ?

 レッカが砂地の中央へ走り、即席の旗を深く突き刺す。

★レッカ(幼):よし!これが海辺に立ってるヒーローの旗だ!

●マルチ(幼):今度は何を始める気だい。

★レッカ(幼):勝負しようぜ。あそこの岩からここまで競争な。先にこの旗を取った方がヒーロー!

●マルチ(幼):ずいぶん簡単に決まるんだね、ヒーロー。

★レッカ(幼):分かりやすくていいだろ!負けた方はヒーローの子分!

●マルチ(幼):絶対に嫌だ。

★レッカ(幼):じゃあ、負けた方は……ヒーローの相棒!

●マルチ(幼):なんだよそれ。勝っても負けても、結局付き合わされるんじゃないか。

★レッカ(幼):いいんだよ!一人より二人!俺にはマルチ、マルチには俺がいれば、なにもこわくねぇ!

●マルチ(幼):っ……。

★レッカ(幼):なろうぜ、ヒーローに。

●マルチ(幼):……ふ。まったく。君ってやつは、いっつも藪から棒に。

 腰を上げ、レッカの横に並ぶマルチ。

●マルチ(幼):ヒーロー……か。

★レッカ(幼):お、やる気になったか?

●マルチ(幼):気になることはとことん調べたいってだけだよ。「海」も「空」も、「太陽」も。本に書いてある景色が本物なのか、自分の目で確かめたい。

●マルチ(幼):だったらヒーローになるのも、悪くない。

★レッカ(幼):決まりだな、相棒。

●マルチ(幼):勝手に決めるな。僕が勝てば、僕がヒーローで君が相棒。

★レッカ(幼):へへっ、絶対負けねえよ!

 二人が身を低くする。遠くに立つ、手作りの赤い旗。
 本当の海など一度も見たことがない。
 それでも二人の目には、何もない砂地の向こうに、どこまでも広がる青い海が見えていた。


★レッカ(幼):見に行くぞ、本物を。いつか、ヒーローになって。

●マルチ(幼):ああ――往こう。


~~~~シーン⑦~~~~


 黒い空間を漂う浮島で、四つの影が交差する。

 
★レッカ:闘気解放――『鬼神烈火』!!

■ガンシャーク:武装権限――『血鮫双牙(ブラッディファング)』!!
まずはテメェからァ!

★レッカ:だったらこっちもだ!『爆熱・旋風脚』!!

 炎を纏った蹴りと血の刃が激突。

■ガンシャーク:ぐッ……!

★レッカ:うおおおおおッ!

■ガンシャーク:チィッ、押し切る気かよォ!

▼ガンドッグ:熱くなりすぎんな、ブラザー!

★レッカ:ッ!

▼ガンドッグ:よう、背中がガラ空きだぜ、小僧(ボーイ)。

■ガンシャーク:挟み撃ちってかァ!

●マルチ:そっちこそ背中がお留守だよ、獣(ケダモノ)――『電撃波(ボルトクラッシュ)』!

▼ガンドッグ:ぅおっと!!

●マルチ:忘れるなよ、レッカの背中は僕が見てる。

★レッカ:サンキュー!

■ガンシャーク:気持ち悪ィんだよテメェらァ!

●マルチ:君たちに言われたくないけどね!

▼ガンドッグ:クククッ!どっちのバディが先に崩れるか、試してみようじゃねえか!

 ガンドッグが自らの掌を嚙み切る。
 溢れ出した血液が空中で凝固し、長大な銃身へ姿を変える。


●マルチ:……!

★レッカ:アイツも!?

■ガンシャーク:なんだァ、俺の能力だけだと思ったか?

▼ガンドッグ:俺たちが「双頭兄弟(オルトロス)」と呼ばれてる理由を教えてやるよ。

▼ガンドッグ:武装権限――『猟犬長銃(ハウンドライフル)』。

●マルチ:それもそうか……ガンシャークと同じ、血液を武器へ変換する能力……!

■ガンシャーク:クキキキ!俺と兄貴は、二人で同じ力を共有する戦士よォ!

▼ガンドッグ:ただし!

 レッカに狙いを定めるガンドッグ。発砲。

▼ガンドッグ:俺の方が、ちィとばかし――使い方が上手い。

●マルチ:うわッ!

 首を傾け、辛うじて弾丸を避ける。
 だが弾丸は背後の岩へ着弾する直前、血液へ戻る。


●マルチ:弾丸が血液に戻った…!?

★レッカ:なんだ!?

▼ガンドッグ:『再武装(リ・バウンド)』。

 飛び散った血液が無数の刃へ変形し、レッカを襲う。

●マルチ:レッカ!!

★レッカ:旋風脚・回避!!

▼ガンドッグ:クククッ!

●マルチ:一度武器にした血液を、さらに別の武器へ再変換できるのか……!

▼ガンドッグ:剣だろうが。銃だろうが。槍だろうが。爆弾だろうが。
人を殺すために使えるもんなら――俺にとっちゃ全部「武器」だ。

★レッカ:物騒な定義しやがって!

▼ガンドッグ:野蛮で鬼畜、冷血にして非道。戦士ってのはそうでなくちゃつまらねえ!!

■ガンシャーク:兄貴ィ!暑苦しいのから潰すぜェ!

▼ガンドッグ:おうよォ!

 レッカの正面と背後から、二人が同時に襲い掛かる。

■ガンシャーク:『鮫牙突進(シャークバイト)』!!

▼ガンドッグ:『猟牙血槍(ハウンドランス)』!!

★レッカ:クソ、どっち見りゃいいんだよ!

●マルチ:前だけ見ろ!!
霊脈フル解放、精霊回路接続(エレメンタルリンク)!

属性複合障壁『四象結界(クアドラシールド)』!!

■ガンシャーク:ナァ!?

▼ガンドッグ:チィッ!脇からチョロチョロとォ!

●マルチ:今だレッカ!

★レッカ:任せろォ!!

 結界が消え、その隙間からガンシャークの顎へ拳を叩き込む。

★レッカ:『爆熱・旋風拳』!!

■ガンシャーク:がはぁァッ!

 ガンシャークが吹き飛ばされる。しかし、その瞬間。
 レッカの拳についたガンシャークの血が、赤い鎖へ変化する。


▼ガンドッグ:捕まえたぜ。

★レッカ:腕に鎖が!?

●マルチ:まさか、ガンシャークの血まで!

▼ガンドッグ:言っただろ、俺の方が使い方が上手いってなァ。

●マルチ:自分の血液でなくても……武装権限を行使できるのかよ!

▼ガンドッグ:御名答。血でありさえすりゃ、誰のもんでも構わねえ――『断頭猟斧(ハウンドギロチン)』!

●マルチ:『水圧弾(アクアバレット)』!

▼ガンドッグ:甘ェ!『再武装(リ・バウンド)』!

 斧が即座にショットガンに変わり、水弾を爆発四散させる。

●マルチ:今度は銃にッ、何でもありか……!

▼ガンドッグ:武器も頭も、使い手次第よォ。

★レッカ:だったら――その使い手をぶっ飛ばす!そら!

 レッカが鎖を掴み、逆にガンドッグを引き寄せる。

▼ガンドッグ:なに!?

★レッカ:ふんぬうッ!(頭突き)

▼ガンドッグ:ぐォッ!

★レッカ:どうだ!頭使ったぜ!

●マルチ:物理的な意味でね!

■ガンシャーク:兄貴ィ!

●マルチ:よそ見してる場合かい?

■ガンシャーク:あァ!?

●マルチ:『属性転換(エレメンタルリバース)』!

■ガンシャーク:ぐぎぎぎぎぎッ!!また……俺の武装が……!

●マルチ:学ばない奴だ。君の能力はもう解析済みだ。

■ガンシャーク:一回勝ったくらいで、調子に乗ってんじゃねえぞォ!

▼ガンドッグ:どいてろブラザー、派手にヤる――武装権限!

 ガンドッグが浮島の上に飛び散った血液へ手をかざす。
 ガンシャークの血。自分の血。レッカの血。
 それら全てが空中へ浮かび上がる。


●マルチ:血液が……集まっていく!

▼ガンドッグ:『百刃血界(ハンドレッドアーセナル)』。

 浮島を埋め尽くすほどの剣、槍、銃器、様々な武器が形成され、一斉に射出される。

★レッカ:多すぎだろ!!

▼ガンドッグ:全部避けてみろォ!

●マルチ:レッカ、僕の後ろへ!結界を――。

★レッカ:いや、むしろ今しかねぇよ、攻めるなら!

●マルチ:なッ!!

★レッカ:守られっぱなしは性に合わねえんだよ!『爆熱ッ!ライジングサイクロン』!!

 巨大な炎の旋風が武器の雨を吹き飛ばす。
 炎の届かなかったいくつかの武器がレッカに刺さり多量の血を巻き上げるが、レッカの勢いはさらに増していく。


▼ガンドッグ:あの量を勢い任せにッ!?

●マルチ:なにやってるレッカ!全部弾くのは無理だ!

★レッカ:攻撃こそ最大のなんとやらだ!
野郎が大技決めて無防備になってる今が逆転の機(チャンス)だろ!違うか相棒!!

●マルチ:ああもう!無茶苦茶するなぁホント!!
精霊回路接続(エレメンタルリンク)、『疾風駄天(アクセラレーション)』!

★レッカ:おおッ!

●マルチ:3秒だけ加速する!ガンドッグまで突っ込め!

★レッカ:上等!!バァァァニング――ゴォォォォオ!!

▼ガンドッグ:くるなら来いよォォオ!

★レッカ:1ィ!

■ガンシャーク:近づくんじゃねェ!『血鮫装甲(ブラッディシャーク)』!!

★レッカ:2ィ!

 突風に乗り血の装甲を蹴り砕く。

■ガンシャーク:ぐぎぁぁッ!

★レッカ:3ッッ、ようやく届いたぜ――。

▼ガンドッグ:こいつゥゥウ!!

★レッカ:喰らえ『爆熱火速ッ!ライジングフィストォォォ!!』

▼ガンドッグ:ガハアアアァァッ!!

 拳がガンドッグの腹部へ深々と突き刺さる。身体が宙へ跳ね上げられる。

●マルチ:ナイスファイト。

★レッカ:ふぅーーーーー、スッキリしたぜ!


~~~~シーン⑧~~~~


■ガンシャーク:あ、兄貴ィ……!

★レッカ:どうだよ!俺の渾身の味はぁ!

 倒れた態勢のまま、不意にガンドッグの身体が震える。

▼ガンドッグ:………………ク。

★レッカ:あ?

▼ガンドッグ:ククク。クハハハハハハハ。
あァ……こいつは悪くねえ。悪くねぇよテメェら、相当やるじゃねえか。

●マルチ:急に素直になったな。

▼ガンドッグ:あぁあぁ認めてやるよ。戦士(ガキ)共。テメェらは、これまで俺達が潰してきた連中とは一癖違う。

★レッカ:そりゃどうも!

▼ガンドッグ:だからよォ……こっから先は――。

 ガンドッグが懐へ手を入れる。

▼ガンドッグ:出し惜しみ無しだ。

 拳大の深紅の結晶を取り出す。
 内部で無数の赤い筋が脈打ち、まるで生きた心臓のように光っている。


●マルチ:……なんだ、それ。

■ガンシャーク:ついにやるんだな、兄貴ィ!とっておきを……!!

★レッカ:宝石……か?

●マルチ:違う、霊的反応が異常だ。何十……いや、何百もの生命反応が渦巻いてる……?

▼ガンドッグ:さすがだな。こいつは、俺たちがこれまで潰してきた戦士共……賞金首。競争相手。邪魔者。裏切り者。数えだしたらキリがねぇ連中。
そういう奴らから集めた血を、何年もかけて凝縮して。凝縮して凝縮して。

▼ガンドッグ:ひとつに結晶化させた魔の代物だ。

★レッカ:ッ……!

●マルチ:まさか……。

▼ガンドッグ:俺たちはこう呼んでる――『賢者の石(ブラッド・コア)』。

●マルチ:超高濃度の、血液成分……!

■ガンシャーク:ここまで言えば……あとは分かるよなァ?

▼ガンドッグ:血一滴にだって力は宿る。なら、数百の人間の血を一つに固めりゃどうなると思う?

★レッカ:まじかよ、テメェ……!

●マルチ:嫌な予感がしてきた。

▼ガンドッグ:第二ラウンド(つづき)と洒落込もうぜェ――武装権限。

 血の結晶を頭上に放り投げ、そこから巨大な赤黒い渦が生まれる。
 渦があらゆる形を成し、それらが次々と組み上がり、巨大な何かに変貌していく。


★レッカ:なんだ…………ありゃ。

●マルチ:英雄譚で見たことがある……人を乗せて空を飛ぶ、大きな機械……!?

▼ガンドッグ:ちょいとばかし違うなァ。コイツは天を支配し地上を蹂躙するために生み出された殺戮武装マシン。外界じゃあ、こういうのを。
――「戦闘機(ファイター)」って呼ぶらしいぜ。

 禍々しい戦闘機が、闇の中で両翼を広げる。

★レッカ:もう武器とかって範囲じゃねえだろ……!!

▼ガンドッグ:能力ってのはよォ、どこまで自分勝手に解釈できるかで強さが決まんだよ!

■ガンシャーク:クキキキキ!兄貴らしいぜェ!

▼ガンドッグ:乗れ、ブラザー!

■ガンシャーク:待ってましたァ!

 二人が戦闘機へ飛び乗る。装甲が二人を呑み込み、機体と一体化していく。

●マルチ:……レッカ。

★レッカ:おう。

●マルチ:ちょっとまずい。

★レッカ:ちょっとで済むか!?

▼ガンドッグ:血戦兵器、『ファングヘッドシャーク』――起動。

■ガンシャーク:人間狩り(ハンティング)の時間だァーー!!

 エンジンが唸り、戦闘機が爆発的に加速し、闇を旋回する。

★レッカ:なんだあの速さ――ッ!!

●マルチ:言ってる場合か!ここから離れろレッカァ!!グッッ!!

 直後、浮島が降れ、二人が爆風に巻き込まれる。

▼ガンドッグ:『血晶機関砲(ブラッドバルカン)』!

■ガンシャーク:蜂の巣だァァァ!!

 機体から無数の赤い弾丸が降り注ぐ。

●マルチ:『疾風障壁(エアロウォール)』!!

★レッカ:ぐおおおおおッ!!

●マルチ:駄目だ!弾速が速すぎて身動きが!

■ガンシャーク:まだまだァ!

 戦闘機がさらに旋回。翼の下から巨大な血の塊が発射される。

▼ガンドッグ:『対戦士誘導血弾(ブラッドミサイル)』!

●マルチ:『四象結界(クアドラシールド)』!!

 結界に衝突する轟音と衝撃が二人を襲う。
 ミサイルを受けた浮島の一部が次々と崩れていく。


★レッカ:やべぇぞ!!

●マルチ:ぐうッ!結界越しでもこの破壊力ッ!!

■ガンシャーク:逃げ場なんてありゃしねえよォオ!

▼ガンドッグ:何者だろうとォ、この無敵のガンブラザーズの暴力兵器にゃあ敵わねえ!!

■ガンシャーク:地獄で逢おうぜェ――フルファイヤ!!

 機体の全身から一斉に武装がせり出す。
 赤い弾丸と誘導弾が、濁流のように結界へ殺到する。


●マルチ:ぐ……ッ、うううううう!!

★レッカ:クソッ、守ってるだけじゃジリ貧だ!
あのデカブツをどうにかしねえと、浮島ごと全部ぶっ壊されちまう!

●マルチ:わかってるよ、そんなことは……!

★レッカ:イチかバチか、俺がアイツを叩き落として――!

●マルチ:無謀すぎる!あの飛行速度は僕のブーストより速い。近づこうとすれば機関砲、距離を取れば誘導弾。
仮に一発当てたところで、中央にあるコアから供給される血液で修復されるのが目に見えてる!

★レッカ:つまりあの赤い石をぶっ壊せば全部止まるんだろ!だったら!

●マルチ:場所が分かってても届かなきゃ意味がないって話をしてるんだ!
今の僕たちの体力じゃ、一度失敗した時点で終わる!

★レッカ:だったら一回で決めてやる!

●マルチ:君は本当に人の話を聞かない……くっ!

 四象結界の一角が砕ける。

★レッカ:マルチ。

●マルチ:……なんだよ。

★レッカ:あるんだよな、方法。

●マルチ:……!

★レッカ:どんなときでも、無茶で無謀でも、お前は絶対に”無理”とは言わねえ。付き合い長いんだから、そんくらい分かるぜ。
ビビッてないで俺にやらせろ。

●マルチ:はぁ…………。理屈の上ではね。
僕の三属性ブーストとレッカのフルパワーの一撃なら、装甲を貫ける可能性はある。

★レッカ:ほらみろ! やっぱいけるじゃねえか!

●マルチ:最後まで聞け。問題はチャージ時間だ。
それなりの出力を右腕に集めるんだ、絶対に無防備になる。
何十秒か、あのイカれた戦闘機(マシン)を引きつけない限り――。

▼ガンドッグ:相談は済んだかァ!?なら次で終わりだ!

 戦闘機が大きく旋回。巨大な砲門が、二人を真正面から捉える。

■ガンシャーク:兄貴ィ!島ごと派手に消し飛ばそうぜェ、泥と鮮血の花火で祝杯だァ……!

▼ガンドッグ:そいつぁいいなァ!
盛大に、跡形もなく、成す術もなく、真っ逆さまに墜ちていきなアアア!

絶望への直通便だぜ(ゴゥ・トゥ・ラグナロク)!武装権限!!

■ガンシャーク:ファングヘッドシャーク、『地獄行き血晶重砲(ヘルブラッドバスター)』!!――充填ンン!

●マルチ:まずい、あれは結界じゃ受けきれない!

★レッカ:俺が前に!あんなもん弾き返して……!

●マルチ:やめろ! 今の君が直撃を受けたら――ッ!

 刹那、光が奔る。

◆セイバー:――神器開放!『天穿聖光剣(ヘヴンズ・レイ)』!!

 巨大な光の斬撃が横合いから飛来し、発射寸前だった砲門を吹き飛ばす。

▼ガンドッグ:ぐぎッ!?

■ガンシャーク:なんだァ!?

 爆炎を裂いて、一人の騎士が浮島へ降り立つ。

★レッカ:セイバー!!

●マルチ:……!

◆セイバー:ようやく見つけました。二人とも、想像以上に酷い有様ですね。

★レッカ:うっせえ、これくらいかすり傷だよ!
でもナイスタイミングだぜ、ちょっと手を貸し――。

●マルチ:助太刀なら結構だ。

★レッカ:おいマルチ……!

●マルチ:これは僕たちの勝負だ。ガンドッグたちは僕らだけで倒す。

◆セイバー:相変わらず可愛げがありませんね。ですが、今はその意地に付き合っている余裕がない。旗取りは後回しです。

●マルチ:……?なんの話だ?

▼ガンドッグ:おいおい騎士様ァ!人様の舞台に割り込んどいて、随分楽しそうに井戸端会議してくれるじゃねえか!

■ガンシャーク:今さらノコノコ現れやがってェ、お呼びじゃあねぇんだよォ!

 戦闘機の損傷した重砲門が、血液に包まれ、見る見るうちに元の形へ戻っていく。

★レッカ:もう直ってやがる……!

●マルチ:やっぱりコアが健在な限り、何度壊しても修復する。

◆セイバー:あの力のエネルギー源、ですか。
双頭兄弟(オルトロス)の能力は把握していたつもりでしたが、あんな隠し玉があったとは。

●マルチ:あのコアを破壊すれば止められると思う。でも、そのためには機体の内部まで確実に貫く必要がある。僕らだけだと……そこまで溜める時間が作れない。

◆セイバー:ふむ。それならば、話は簡単ですね。

▼ガンドッグ:今度こそ吹き飛べェ!ヘルブラッドバスター、発射ァア!!

◆セイバー:まだ話の途中です――『聖域展開(サンクチュアリ)』!!

 瞬時に広がった光の輪が砲弾と衝突、砲弾が光に包まれ消滅する。

■ガンシャーク:なんだとォ!?

★レッカ:すげぇ、あんな簡単に!

●マルチ:……強い。

◆セイバー:私が奴等の相手をしましょう。その間に二人で切り札を完成させなさい。

●マルチ:……簡単に言うけど、相手は空を飛び回る戦闘機(モンスター)だ。そのうえ強力な武装を備えてる。並の障壁じゃあの火力を何十秒も受け止められない。

★レッカ:さっきのでまた防げばいいんじゃんか。

●マルチ:連発は厳しいはずだよ、こんな高出力な技は。

 聖域の光が点滅し、徐々に弱まっていく。

◆セイバー:……見透かされていますね。

★レッカ:じゃあダメじゃねえか……!

◆セイバー:たしかに、純粋な盾と矛の勝負ではこちらが不利……ですが。

★レッカ:……?

◆セイバー:攻撃を受け止めるだけが戦いではない。向こうが空から攻めるのであれば、こちらも同じ土俵に上がるまでのこと。

★レッカ:同じって……アンタ飛べんのか!?

◆セイバー:見くびられては困ります。「剣聖」の力が、このカリバーンだけだと思われては。
 本来ならば試練の最後まで温存するはずの奥ノ手(リーサルウェポン)、でしたが……使うなら、今がそのときでしょう。

●マルチ:……アンタは、本当にお節介ばっかりするんだな。

◆セイバー:よく言われます。

●マルチ:自分が損するだけのことに……他人事に首を突っ込んできて、いい迷惑だ。

★レッカ:ありがた迷惑って顔に書いてんぜ。

●マルチ:だまれ。

◆セイバー:構いません。善し悪しでやっていることではないので。
貴方と同じですよ、少年。

●マルチ:は……?

◆セイバー:これは自分のための行い。譲りたくない矜持というもの。
手の届くものは全て拾う。私は、私の理想と信念に揺るがず、恥じない生き方を貫くだけです。

★レッカ:……へへ。

●マルチ:なに笑ってるんだよ。

★レッカ:いや、セイバー。やっぱアンタ、いい奴だなって。

◆セイバー:……ふっ。私ほどの騎士をつかまえておいて、今さら気づいたのですか。

●マルチ:自分で言うんだ……。

◆セイバー:話は決まりです。そろそろ聖域(たて)が消失します。
一度しか作れない機会です。失敗すれば、私も含め全員があの砲火に呑まれる。

★レッカ:一回で充分だ。俺とマルチは、そういう無茶ばっかりやってここまで来た。

●マルチ:その無茶に巻き込まれる身にもなってくれよなぁ……。

◆セイバー:やるんですか、やらないんですか。

●マルチ:あー、もう!
……今回だけだ、騎士サマ。今回だけはアンタのお節介につきあってやる。

◆セイバー:厚意は素直に受け取っておくものですよ、若輩(しょうねん)。

●マルチ:馬鹿にされてる気がするんだけど。

★レッカ:それじゃあ、やるか!

◆セイバー:聖域が解除されます。

 光の輪が完全に消える。飛行する兄弟がこちらへと旋回する。

▼ガンドッグ:クハハハハ!!
オーケイ、作戦会議終了なら再開だェ!ブラザー、あの女騎士から撃ち落とす!

■ガンシャーク:了解だァ!仲良く血溜まりに沈めてやるよォ!

◆セイバー:二人とも、準備に入ってください。

★レッカ:死ぬなよ、セイバー!

◆セイバー:当然です。守る者が先に倒れては格好がつきませんから。

 瞳を閉じて集中するセイバー。聖剣を中心に、幾重もの光の陣が展開する。

◆セイバー:――神器完全解放。

◆セイバー:聖装、召喚。


~~~~シーン⑨~~~~


 回想。街の裏路地。
 一人の少女が、薄汚れた布を纏い、寒さに震えながら壁際にうずくまっている。


◆セイバー:(……争うことは、嫌いだ)

 ある時は、パンの欠片を、自分よりさらに幼い子供へ差し出す。

◆セイバー(幼):昨日から何も食べてないでしょう。これはあなたが食べて。

◆セイバー:(……両親は無益な戦いに巻き込まれ、この世を去った。残された私は、生にしがみつくだけの無力な存在だった)

 ある時は、大人たちに囲まれ、いわれのない非難の声を浴びせられる。

◆セイバー(幼):違います、盗んでません。教会の人にいただいたものです……うぐ!! 

 殴られ、蹴られ、少女がぼろ雑巾のように転がる。
 通りすがる人々や戦士たちは、汚いモノから目をそらし、見て見ぬふりをする。


◆セイバー:(……英雄譚は、嫌いだ)

 読み捨てられた擦り切れた絵本を、他の孤児たちと眺める。
 白銀の鎧を纏った英雄に、子供たちが目を輝かせる。


◆セイバー(幼):みんなを守る、強い英雄……どうして、ここには来てくれないんだろう。

 ある時は、ならず者に攫われ、奴隷として迷宮の奥地に取り残される。
 ならず者も、その他の奴隷達も、怪物に食い荒らされる。


◆セイバー:(……物語に出てくるような、都合のいい英雄なんていない。だれも助けてはくれない……ならば)

 そして迷宮の祭壇。血塗れの少女の手に、白い光が灯る。聖剣が出現する。

◆セイバー(幼):……わたしが。戦わなきゃ。守らなきゃ。

◆セイバー:他の誰かではない。私が、やらなければならない。


~~~~シーン⑩~~~~


◆セイバー:我が光は、力なき者を守る盾となり、降りかかる災厄を切り払う剣となり。

◆セイバー:理不尽な世界に抗う者の守護神となれ!
聖装権限――来なさい、『ブリュンヒルデ』!!

 眩い光がセイバーの身体を包む。
 純白と黄金の装甲。腰から伸びる光帯は翼のように広がり、頭上には細い光輪。
 さらに蹄の音と共に、光で形作られた一頭の白馬が現れる。


★レッカ:キンピカになったぞ!それに、光の馬……!?

◆セイバー:光馬(こうま)グラニ。私と共に、天(そら)を駆けなさい。

 光馬へ跨がる。その蹄が何もない空間を踏みしめ、聖騎士が黒い空に駆け上がる。
 白と赤の戦士が、空中で相対する。


▼ガンドッグ:クククッ、戦女神(パラディン)のご降臨ってかァ?面白くなってきやがった。

◆セイバー:手合わせを願いましょう。

聖騎士らしく、悪党二人を退治して差し上げます。

▼ガンドッグ:テメェとは退屈しなさそうだ。

◆セイバー:往きます!!

■ガンシャーク:撃沈して屈服しなァ!!

▼ガンドッグ:全兵装、標的を騎士へ変更だァ!ファングヘッドシャーク――フルスロットル!

◆セイバー:ハァッ!

 光の尾を引きながら、両者がすれ違う。
 戦闘機が加速。迎え撃つように、グラニが空を蹴る。


■ガンシャーク:後ろ取ったぜェ、『血晶機関砲(ブラッドバルカン)』!

◆セイバー:見えています!

天空に駆ける飛翔の剣――『神聖光翼斬(ヴィルキリーフェザー)』!!

 グラニが直角に方向を変える。弾丸の雨を潜り抜け、セイバーが翼へ聖剣を叩き込む。

■ガンシャーク:うおおおッ!翼がァ!

▼ガンドッグ:騒ぐなブラザー!すぐに元通りだ!

◆セイバー:やはり、多少削った程度では意味がない……!

▼ガンドッグ:残念だったなァ!弾も兵装も、ブラッド・コアがある限り、壊れた分だけ新しく作り直せる!

■ガンシャーク:それに比べて騎士サマはどうだァ?その派手な光はいつまで持つかなァ!

▼ガンドッグ:俺たちの燃料は数百人分。テメェの燃料はテメェ一人だ。どっちが先に干上がるかなんざ馬鹿でも分かるぜ!

◆セイバー:持久戦をするつもりはありません!グラニ!!

 光馬が戦闘機の真上へ回り込む。セイバーが飛び降り、機体上部へカリバーンを突き刺す。

▼ガンドッグ:ぐおッ!?

■ガンシャーク:コイツ機体に乗りやがった!

◆セイバー:そのまま真っ直ぐ飛んでいなさい!闇を裂く光芒の剣――『神聖光斬(ヴァルキリースラッシュ)』!!

 聖剣を装甲へ突き立てたまま、一直線に伸びる閃光が機体を斬り裂いていく。

▼ガンドッグ:舐めるなァ!『再武装(リ・バウンド)』!!

■ガンシャーク:串刺しになれェ!

◆セイバー:当たりません!

 機体表面から無数の刃。セイバーが飛び退く。
 落下するセイバーを光馬が受け止める。


▼ガンドッグ:クカカカ!!面白ェ、もっと舞い踊ろうぜ騎士ィ!

『対戦士誘導血弾(ブラッドミサイル)』、全放射!

 十数発の誘導血弾がセイバーを襲う。

◆セイバー:追尾するというなら……こうだ!

 グラニが大きく旋回。誘導弾を引き連れたまま戦闘機の周囲を駆ける。

■ガンシャーク:ッ!!

▼ガンドッグ:射線を切れブラザー!あの女、ミサイルをこっちへ――!

◆セイバー:気づくのが遅い、お返しします!

 セイバーが急上昇。行き場を失った誘導弾がファングヘッドシャークへ殺到する。

■ガンシャーク:うおおおおお!?

 爆発が重なり、機体の装甲が大きく弾け飛ぶ。しかし次の瞬間には修復が始まる。

◆セイバー:外装を剥がせても、内部からの修復が速い……!
使い手(ガンドッグ)本体を叩ければと思いましたが、それも難しいようですね。

▼ガンドッグ:無駄なことを。いくらでも直せるっつってんだろォ。

■ガンシャーク:そろそろ息切れしてきたんじゃねえか騎士様ァ!
動きが最初より鈍ってるぜ!

◆セイバー:余計な心配です、自らの足元を気にしたら――どうですかぁ!

 すれ違いざまに光馬の蹄が機首を蹴り飛ばす。

■ガンシャーク:ぐあッ!また正面が潰れたァ!

▼ガンドッグ:直せえ!

◆セイバー:はぁ……はぁ……!何度でも……!

 攻撃を交わし、斬っては直されの攻防を繰り返す。ブリュンヒルデの光は確実に弱まっていく。

◆セイバー:そろそろ……!

▼ガンドッグ:力尽きるってかァ??

◆セイバー:そうですね……この聖装はもう長く保ちません。

■ガンシャーク:じゃあ最後はこれで爆ぜなァ!

『地獄行き血晶重砲(ヘルブラッドバスター)』、充填!!

▼ガンドッグ:至近距離でお見舞いしてやるよォ。

 戦闘機が光馬の背後の張り付き、しつこく追尾する。

◆セイバー:くッッ!!

▼ガンドッグ:逃げる力も残ってねえか!テメェの理想とやらも、所詮はその程度の代物だァ。圧倒的な暴力(ちから)の前には、なんの価値もねェ!

◆セイバー:……一つ、訂正しましょう。

▼ガンドッグ:あァ?

◆セイバー:貴方達の生き方を否定するつもりも、競うつもりもない。
どちらかが上か下かなんて、そんな些末な測りに最初から興味はない。

▼ガンドッグ:んだとォ……!

◆セイバー:力を持つことが偉いのではありません。そこに私自身が何を見出すかです。

■ガンシャーク:綺麗ごとを抜かしてんじゃねえ!

◆セイバー:目に見えるただの結果(ちから)にふんぞり返る者に、私の信じる理想は折れない!私の足は止められない!

▼ガンドッグ:……そうかよ。

ならその薄ら寒い信念を抱きしめたまま、墜ちるんだな。無様によォ!

◆セイバー:私は……私の成すべきことを最後まで果たす。

▼ガンドッグ:……ッ!!

 地上から炎が吹き上がり、空に向かって飛んでくる。

◆セイバー:アナタはどうですか――小さな英雄(ヒーロー)!!

★レッカ:バァァァニング――!

▼ガンドッグ:ガキィィィィイ!!

★レッカ:ゴォォォォオ!!

 烈火の如く、火炎を纏って戦闘機に突っ込んでいくレッカ。

▼ガンドッグ:迎撃しろブラザー!!

■ガンシャーク:間に合わねェ、速すぎる!!

★レッカ:うおおおおおおおおおおお!!『爆熱火速ッ――!!』

 拳が装甲へ突き刺さり、機体が大きく傾く。

★レッカ:『ライジングキャォォノンッ!!』

 大爆発と共に、ファングヘッドシャークが中央から真っ二つに弾け飛ぶ。

■ガンシャーク:があああああああああ!!

★レッカ:やったか……!!

◆セイバー:ッ、まだです!!コアが残っている!!

★レッカ:ウソだろ!? あんだけぶち抜いたのに!

▼ガンドッグ:ク、クク……!

■ガンシャーク:まだ……終わってねえぞォ!

▼ガンドッグ:コアさえ無事なら、何度だって……蘇らせる!

◆セイバー:くそ!!

▼ガンドッグ:あと少しで届いたものを、ザンネンだったなァ!

★レッカ:――――いや、これでいいぜ。

◆セイバー:……!!

★レッカ:コアまでの道標(ルート)は、俺が作った。

●マルチ:――なら、残りは僕の仕事だ。

 レッカが纏う炎の内側からマルチが飛び出し、機体に乗り移る。

■ガンシャーク:小細工野郎ォ!!

▼ガンドッグ:ガキにくっついてやがったか!!

●マルチ:精霊回路接続(エレメンタルリンク)!
自信に『炎身励起(アクティベート)』『疾風駄天(アクセラレーション)』『雷脈超過(オーバーブースト)』!

■ガンシャーク:コイツゥゥウ!!

●マルチ:見様見真似(イミテイト)だけど、破壊するならこれで十分だろ――火霊回路接続・点火(フレイムリンク・イグニッション)!!

 脚に青い炎を纏う。その姿はレッカの如く。

◆セイバー:いけ……!

★レッカ:いけええええええ!!

▼ガンドッグ:やめろォォォ!!

●マルチ:灼熱ッ!!ライジングストライク!!!

 結晶が粉々になり、赤い欠片となって散る。
 その瞬間、再形成されかけていた戦闘機が一斉に形を失う。
 全員が落下していく。


■ガンシャーク:うおおおおおお!?

▼ガンドッグ:馬鹿なァア、俺の…………ブラッド・コア(おれのちから)があああああ!!

●マルチ:うわああああ!!

★レッカ:落っこちるううう!

◆セイバー:グラニ!!

 光馬が急降下し、セイバーがマルチの腕を掴み上げる。

★レッカ:……あ、あぶねぇ。

◆セイバー:本日二度目のお節介ですね。

●マルチ:……いちいち礼は言わないぞ。

◆セイバー:構いません。

●マルチ:…………けど。助かったことは、認める。

◆セイバー:――ふっ。礼には及びませんよ、少年。

●マルチ:……むかつくなぁ、ほんと。

 

~~~~シーン⑪~~~~


 しばらくの静寂。
 やがて瓦礫の中から、地面を這って身体を引きずり出す二人の男。


■ガンシャーク:ア……兄貴ィ……。

▼ガンドッグ:クソ……が……。俺たちが……こんな、ガキ共なんぞに……。

★レッカ:――よう。

▼ガンドッグ:……!!

★レッカ:やっと膝をついたな――負け犬(ルーザー)。

▼ガンドッグ:――クク。言うようになったじゃねえか……クソガキ。

★レッカ:おかげさまでな。

▼ガンドッグ:名前は。

★レッカ:レッカ。英雄(ヒーロー)になる男だ。覚えてろ。

▼ガンドッグ:そうか、レッカ……最後に一発ぶちのめしてやるよ。

★レッカ:やってみろよ、できるもんなら。

▼ガンドッグ:…………。

★レッカ:…………。

 お互いに手の届く距離。無言になる二人、そして。

▼ガンドッグ:武装権限!ハウンド――ぐごぁ!!!

★レッカ:『本家爆熱(オリジナル)ッ!ライジングフィストォォォ!!』

▼ガンドッグ:ぐあああああああッ!!

 顔面に燃える拳が的中し、地面へ叩きつけられ、今度こそ倒れる。

■ガンシャーク:アニ……キ……。

★レッカ:俺たちの勝ちだ。

▼ガンドッグ:…………。ここまで、か……殺せよ。

★レッカ:断る。

●マルチ:君たちと違って、倒した相手をわざわざ殺して回る趣味はない。

★レッカ:俺たちが旗(フラッグ)を取るまで、そこで大人しくしてろ。

■ガンシャーク:……ちくしょう。ちくしょう。

▼ガンドッグ:クク……甘っちょろい。気に入らねぇぜ、心底。

★レッカ:それが俺の目指す――――。

◎ノワール:偶像(ヒーロー)、か。実に、興味深い。

 その時、何の前触れもなく黒い空からゴトッと落ちてきた何かが、ガンドッグのそばに転がる。

★レッカ:ッ、なんだ、頭!?

●マルチ:あれは……!

◆セイバー:しまった――ッ!!離れなさい!!

★レッカ:セイバー?

◆セイバー:それに近づいてはいけない!!

 頭部の首元から、黒い影でできた根のようなものが一斉にガンドッグに伸びる。

▼ガンドッグ:……な、なんだ、こりゃ!ぐぅ!?

◎ノワール:闘争と欲に身を委ね、暴力を誇示する。血に飢えた激情。情動。なんとも素晴らしく、赤く染まった偶像(ほんのう)。

■ガンシャーク:兄貴!?

▼ガンドッグ:テメェ……何しやがる……!

◎ノワール:よい素体を、見つけた。

▼ガンドッグ:はな、れ……――ッッ!

 黒い根が、頭部全体を包み、なにかがひしゃげる音。

■ガンシャーク:……アニキ?

 ガンドッグの頭部が、黒い塊の中へ沈む。
 代わりに、ノワールの顔がその首へ収まっていく。


●マルチ:あ、頭を……!!

★レッカ:付け替えやがった……!?

◆セイバー:やられた…………!!

 しばらく動かなくなり、やがて。

◎ノワール:……ああ。

 首が左右へ傾く。

◎ノワール:これは、これは……。

 ゆっくりと嗤う。

◎ノワール:とても良く馴染む。

■ガンシャーク:……テメェ。

◎ノワール:身体能力・特異能力との親和性。
損傷は大きいがしかし、補強すれば問題ない。これまでの素体とは、比較にならない生体情報(じょうもの)だ。

■ガンシャーク:俺の兄貴にッッ、何しやがったァァァァ!!

◆セイバー:待ちなさい!!奴へ無闇に近づいては――!

■ガンシャーク:『鮫牙突進(シャークバイト)』!!

◎ノワール:……。この素体の片割れで、能力も下位互換。

■ガンシャーク:が――。

 ガンシャークの頭部を、ガンドッグの腕で貫く。

◎ノワール:オマエは、どうでもよい。

★レッカ:……!

●マルチ:一瞬で……!

■ガンシャーク:兄……貴……どこ……だ……。

◎ノワール:心配しなくとも。すぐに会える。

 胸を貫いた腕が黒い泥へ変わり、ガンシャークの身体を飲み込んでいく。

 
◎ノワール:ワタシの器の一部として。

 そして、ボコボコボコッと。
 ガンドッグの肉体が伸び縮みし、ノワールの頭が脈打ち、不気味に変形を繰り返し、作り変えられていく。

◎ノワール:一つの偶像として。

★レッカ:なんだよ……あれ。

●マルチ:身体の形そのものが、変わってく……!

 
★レッカ:気色がわりぃ……!

◆セイバー:異形(ノワール)……!!貴様は一体!!

◎ノワール:ノワールとは、この試練へ潜り込むための器に過ぎない。

★レッカ:だったら、テメェは……何者だ。

◎ノワール:そうだな……ワタシがナニモノか。クフフフ。

◎ノワール:オマエを偶像(ヒーロー)と呼ぶのであれば、その対極。
英雄を喰らい、希望に闇を差し、この世に混沌をもたらす者。

 
◎ノワール:――すなわち。ワタシの名は。

 身体の変形が収まり、一つの姿へと収束する。
 そこに立っているのは、ノワールでもガンドッグでもない。
 異様なほど長い胴体、手足、長い髪、白く均等の取れた顔。しかし顔には目も鼻も耳もなく空洞のみ、よく動く口。どこか人間から外れた異形の存在は、両腕を広げる。

 
◎ヴィラン:『虚像(ヴィラン)』。

◎ヴィラン:そう呼ぶのが相応しい。


~~~~シーン⑫~~~~


●マルチ:……レッカ。

★レッカ:ああ。

◆セイバー:アレと戦う気ですか?

★レッカ:よく分かんねぇけど、アイツはヤバイ野郎だってのはビリビリ感じる。

●マルチ:さっきの変化で、少なくとも十数種類の異なる生命反応が見えた。
あの血晶(ブラッド・コア)に近いもの……こいつの中には、ガンドッグ達だけじゃない何かが大量に混ざってる。

◎ヴィラン:さすがは精霊の戦士。優れた観察眼だ。
この迷宮に集った戦士の中から、特に価値の高かった素体をワタシが回収した。

●マルチ:まさか……最初の試練からずっと。

◎ヴィラン:実に効率の良い餌場だ。おかげで力を蓄えることができた。

◆セイバー:何のために戦士たちを取り込んでいるのです!

◎ヴィラン:ワタシは、一つの研究課程で生み出された。

◎ヴィラン:目的は「特異存在」の創造。異なる性質を持つ複数の力を、一つの器へ適合させる実験だ。全ての能力を一つに集約すれば、究極の力が手に入る――研究者たちは、そう考えた。

●マルチ:それで作られたのが、お前か。

◎ヴィラン:正確には、ワタシは完成品ではなかった。異なる力を受け入れるための、空の器。
しかし、その器には意思があった。

◆セイバー:意思……。

◎ヴィラン:何十、何百という力の複合を重ね、その持ち主たちの情報を刻み込まれるうち、ワタシの内側には説明のつかない渇望が宿った。

……そう、ワタシが「生まれた」瞬間だ。

★レッカ:その渇望ってのが、人を喰いてえって趣味かよ。

◎ヴィラン:もっと美しいものだよ。

 ヴィランがくつくつと嗤う。

◎ヴィラン:ワタシは、完璧な偶像を見たくなった。

◎ヴィラン:虚像であるワタシの器を満たす程の、大いなる偶像。
それを全て手に入れて、ワタシは完成する。

★レッカ:意味が分からねえよ!

◆セイバー:能書きはもう十分でしょう。

いずれにせよ貴様のような化物は、騎士としてここで打ち滅ぼします。

★レッカ:まずはコイツを三人でぶっ飛ばす!

●マルチ:ここまで来たら異論はないよ。

◎ヴィラン:…………クフフフ、それもいい。
ワタシという存在の証明は、眩い偶像との戦いの中にこそある。

◆セイバー:『天穿聖光剣(ヘヴンズ・レイ)』!!

★レッカ:『爆熱ッ!ライジングキャノン』!!

◎ヴィラン:試させてもらおう、ワタシの力を――悪器解放。

◎ヴィラン:『万象万魔殿(パンデモニウム)』。

◆★セイバー・レッカ:ッッ!!!

 ヴィランの中へ押し込められていた数え切れないほどの異能が、一斉に外へ吐き出される。それぞれが互いに潰し合いながら巨大な破壊の奔流となって三人へ襲い掛かる。

●マルチ:精霊回路接続(エレメンタルリンク)――『四象結界(クアドラシールド)』!!

 間一髪でマルチの障壁が3人を覆い、攻撃を逃れる。

★レッカ:ぐおおおおお!?

●マルチ:ぐッッ……なんて出力だ! どれだけの能力を同時に吐き出してるんだよ!

◆セイバー:まともに食らっていたら跡形もなく消し飛ぶところでした……!

◎ヴィラン:クハハハハ、これは想像以上……!興味深い結果だ。

◆セイバー:ッ……!!

●マルチ:……ヴィランの身体が崩れてる!

◎ヴィラン:ふむ……やり過ぎたか。定着させたばかりの器では脆く、放出した力の反動に耐え切れない。教訓を得た。

 身体にピシピシと亀裂が走り、崩れていくヴィラン。

◎ヴィラン:残念ながら、今日のところは、ここまでとしよう。

★レッカ:なに言ってんだ、次なんてねえよ!

●マルチ:あれだけ偉そうに「完成する」とか言っといて、ずいぶんと呆気なかったじゃないか。

◎ヴィラン:こんなものは導入部(はじまり)に過ぎないさ。
器を完全に適合させた後、改めて、君たちを見せてもらおうか。

◆セイバー:なにを言って……!

◎ヴィラン:またいずれ、相まみえよう――ワタシの偶像(ヒーロー)たち。

 ヴィランの姿が完全に崩れ去る。
 その直後、黒い領域全体が激しく揺れ始める。


★レッカ:今度はなんだァ!?

●マルチ:術者がいなくなったせいだ!この空間そのものが維持できなくなってる!

◆セイバー:足場が崩れます!

 浮島が次々と闇の底へ消えていく。

★レッカ:また落ちんのかよォォォ!


~~~~シーン⑬~~~~


 鈍い衝撃音。3人が地面に転がる。

★レッカ:いっってぇ!!

●マルチ:ぐぇ……!

★レッカ:いつつ……戻って、きた?

●マルチ:ああ。あの領域だけが剥がれ落ちて、元の場所へ吐き戻されたみたいだ。

◆セイバー:二人とも、身体に異常は。

★レッカ:全身痛えーー!

●マルチ:後先考えずに力を使うからだろ。

★レッカ:マルチだってボロボロじゃねえか!

●マルチ:君よりマシだよ。たぶん…………あ!

 広間の中央。
 最終試練のために立てられた赤い旗だけが、何事もなかったかのように残っている。


★レッカ:……なあ。

●マルチ:言うな。

★レッカ:あのフラッグ、どうすんだ。

●マルチ:だから言うなって言っただろ!
あれだけの戦った後で、今からもう一回バトルロイヤルなんて始める体力がどこにあるんだよ!

★レッカ:お、俺、あと一発くらいならなんとか。

●マルチ:小鹿みたいに足震えてる奴が何を言ってるんだ。

◆セイバー:……ふふ。

 二人がセイバーを見る。

◆セイバー:失礼。貴方たちを見ていると、どうにも緊張感が続きませんね。

★レッカ:お、セイバーが笑った。

◆セイバー:私だって笑いますよ。

●マルチ:騎士サマは年中眉間に皺寄せてるものだと思ってたよ。

◆セイバー:貴方は後で説教です。

●マルチ:ほら、すぐそれだ。

 くすりと微笑んだ後、すぐに真面目な顔つきになり、セイバーは闇の消えた場所を見つめる。

◆セイバー:……ヴィラン。結局ヤツは、なんだったのか。

●マルチ:生命反応は感じない。崩壊して空間と共に消滅したのか……それとも。

★レッカ:関係ねぇよ。

●マルチ:レッカ……。

★レッカ:生きてたとしても……そん時は今日より強くなって、今度こそぶっ飛ばす。

●マルチ:簡単に言うなぁ、本当に。

★レッカ:へ!!だってよ。

 挑戦的に笑い、赤い旗を見上げる。
 幼い日に立てた砂浜の小さな旗と重ね合わせる。


★レッカ:決めただろ。俺たちはあの景色を見に行く。立ち止まってる暇なんてどこにもねえ。
そうだろ、相棒。

 マルチが一瞬だけ目を丸くして、小さく笑う。

●マルチ:ああ。いわれるまでもないさ。

◆セイバー:――その意気ですよ、戦士たち(ヒーロー)。

 腰を上げ、肩を並べる二人の戦士。

★レッカ:俺たちはまだ。
●マルチ:あの旗を取っていないんだから。


~~~~シーン⑭~~~~


 場面は変わり。薄暗い研究室を無数のモニターが青白く照らしている。
 モニターをジロジロと眺める汚い白衣の男。


■サイコドクター:…………ヒッ、ヒッヒッ。

 急に壊れたように嗤い出すドクター。

■サイコドクター:ヒィィィィッヒヒヒヒヒヒヒのヒ!!

■サイコドクター:消えた消えた!本体の生体反応、特異反応、何もかも綺麗さっぱりロスト!自らの能力への適合不全を起こして自壊とはなぁ!

■サイコドクター:だがしかし――実戦データは全て収集済み。放置した甲斐があったというものだ。

■サイコドクター:研究所から勝手に抜け出したつもりだったんだろうが、ワシからすれば野外実験へ出したのと大差ない!
壊れるまで暴れてくれれば、それだけ次の個体に使えるデータが増える!

 資料を持ってせかせかと歩き出し、一つの巨大な水槽に目を止める。
 液体の中で、生気のない頭部が浮いている。


■サイコドクター:器なんてものはしょせん消耗品だ。
壊れたなら、もっと優れたものに交換すればいい。だからオリジナルの細胞から複製した予備の器を、ちゃぁんと残しておいたぁ、ヒヒヒヒヒ。

 頭部をうっとりと見つめる。

■サイコドクター:次はもっと頑丈にしてやる。もっと多くの能力を受け入れられるように。どんな反動にも耐え、異なる異能を同時に使い、身体も瞬時に再構築できるように。
ヒヒヒッ……待ってろよォ、ワシの最高傑作。

 突如、モニターに警告音。

■サイコドクター:……ん?なにごとだ、脳波に異常反応……?

 頭部のそこから、黒い糸のようなものがゆっくりと伸びる。

■サイコドクター:……な、なんだこれは。複製体にこんなものは組み込んでいないぞ!

 黒い糸はやがて、無数の黒い根へと増殖していく。

■サイコドクター:ヒィ!?て、停止だ!緊急凍結処置を――んがぁぁ!?!?

 黒い根が水槽を突き破り、ドクターに頭に巻き付いて水槽に引きずり込もうとする。

■サイコドクター:や、やめろやめろォォ!ワシを誰だと思ってる!ワシが作ったんだぞ!その器も、全部ワシが用意して――!あ゛ッ……ぐべえええええ!!

 完全にドクターが飲み込まれ、静かになる研究室。

 ボコボコボコッと何かが変形する音。
 頭部の口がゆっくりと裂き開き、薄ら笑いを浮かべる。


◎ヴィラン:…………。

◎ヴィラン:…………クフフフフ。

◎ヴィラン:――ハッピーバースデー。新しい「偶像(ワタシ)」。




【 オワリ 】

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